空について



「何してんの?」
「おう」
「一服?休憩中?」
「・・・一本吸う?」
「いっただっきまっす」

 屋上で フェンスに凭れる お前の背中が 思っていたより 小さく見えた

「・・・青いなあ」
「あ?」
「青いぜ、眩しいぜ、徹夜明けの空は犯罪的」
「寝てねぇの?」
「仮眠20分でフル稼働よ。凄くね?」
「はぁ?」

 バッカじゃねぇの と笑う
 お前の方こそ 一睡もしていないような 死んだ目をして

「あー青いぜー空ー!」
「叫ぶな、るせぇ」
「・・・頭、痛い・・・なんか血液下がってます」
「煙草のせいだろ」
「テンション低いよキミ。そんなんじゃ残りの仕事乗り切れないわよ」
「お前のそれはナチュラルハイっつーんだよ」
「そーですハイなんですー!今糸が切れたら死ぬかもしれません」

 なあ 見上げた空は青いぜ
 見てみろよ
 すんげー青くて バカみたいな空が 広がってんだよ

「死んだら骨は拾ってね」
「お前寝てこい、そして二度と起きるな」
「うっそ、そーゆーコト言うわけ?泣いちゃうよ俺。超かわいそー」
「・・・お前何しに来たの?」
「休憩終わりだよって、呼び戻しに?」
「誰が」
「キミの上司さん」
「先に言えよ!」

 とっくに煙草の火は 消えて ゆらゆら煙に顔 顰めて
 糸切れたら 起き上がれない 人形みたいに 白い顔して
 いっそその背中を蹴り倒して 無理矢理にでも 布団に放り込んでやろうか
 無理するなよ なんて 言ってやらない

「だって背中に哀愁しょってたんだもん」
「だもん、とか言うな。気色悪ぃ」
「親父の背中思い出したんだ」
「あ?」
「くたびれてたから」
「・・・戻る」
「あっそ。俺もうちょっとココにいますんで」
「じゃあな・・・」
「おう、お疲れさん」

 小さな背中を見送って お前が凭れてたフェンス 同じように手を掛けて
 豆粒みたいな人間 玩具みたいな車 模型並べたみたいな住宅
 ずっと見下ろして ぐんと 首を捻って 空を見た
 やっぱりバカみたいに 青い
 犯罪的なくらい 眩しい

「・・・ああ、そうか」

 お前は この空を 見たんだな
 青く 青く 高く 高い 空を
 自分が どれだけちっぽけで どんなに小さな存在か
 嫌になるほど 思い知らせてくれる
 この空を 見たかったんだな

「あー・・・とどかねー・・・」

 何度も手を伸ばしては絶望する

 遠い空を






メルマガVol.149掲載(2006年9月10日発行)
出来はともかく(←ここ重要)ネタそのものは気に入っています。
可能なら書き直したいけど何から手を加えりゃいいのか分かりません。


// written by K_