背中合わせの君は読書に夢中
 背中合わせの私は至極退屈

(当然でしょう)

 君の匂いが恋しくて押しつけた背のまますんと息を吸ってみました
 君のぬくもりが愛しくて本に取られた腕を奪い返してみました

(それでも君は振り向かない)

 昨日見た夢の話をしていたけれど
 途中で酷く曖昧な記憶は途切れがちになったのでやめました
 夢の続きを探しに瞼を下ろします
 口を閉ざした私に君はかさりと小さな音を立て
 ようやく忌々しい書物を床に伏せ



 背中から抱きしめられると私は何も言えなくなるのです
 知っているでしょう
 分かっているのでしょう

(なんでこんなに)

 振り向けば君の優しい瞳がじっと私を見ていること分かっているから
 君のまなざしが欲しくて振り向く私をじっと待っていること



「なんでこんなに好きなんだろう」



 君の瞳は鋭利すぎて時に私の胸を貫く



「愛しちゃってるからですよ」



 君の声は凶器のように時に私の胸を裂く
 いつも正しい言葉を紡ぐ唇が
 私を捕らえて離さない






メルマガVol.169掲載(2007年8月31日発行)
“君”って呼びたかっただけ。


// written by K_