一握の祈り


だから僕はほんの少し、唇を噛むことで漏れそうになる何かを堪える。
ごめんねと頬を撫でる風は冷たくて、訳も分からないまま項垂れる。


神様、僕に許されることと言えば、ほんの一握りの幸せ。
そう、僕が望むことと言えば、ほんの一握りの幸せ。


どうしたって僕には叶わないから、せめて彼女の幸せを、冷たい月に祈った。
繋いだ指先は乾いていて、ぎゅっと握り締めたら、彼女も握り返してきた。


僕の想いは、叶わないから。
彼女の想いはどうか、叶いますように。


信じてもいない神様、どうか僕の願いを聞いてください。
僕はほんの少し唇を噛んで、叫び出すのを捻じ伏せる。


冷たい月に祈った一握りの願いさえ届けばいい。
僕はほんの少し唇を噛む。






メルマガVol.132掲載(2005年7月17日発行)
恋とは別の部分で想うことを考えてみたんだと思います。


// written by K_