春になる



桜が散るのは、貴方は言った。
まるで雪のようだと。
雪が溶けたら、貴方は言った。
水になるんじゃないと。

雪が溶けたら、春になる。
春になったら、桜が舞う。
桜が舞ったら。
君に伝えたいことがあると。

貴方は言った。

桜咲かなくても、言いたい事なら両手に溢れるくらい。
溢れる想いなら、舞い散る花びらに負けないくらい。

伝えたいことなんて、この両手で抱えきれないくらいあるのに。

雪が溶けて春になった。
春になって、貴方は。
春になって桜が舞った。
桜が舞って、貴方は。

君に伝えたいことがあると、貴方は言ったはずなのに。

ねぇ雪が溶けたら春になると言った貴方の言葉なんて。
今更信じたくも無いよ。
だって雪は溶けたら無くなるだけじゃない。
水になって、無くなるだけじゃない。

貴方に伝えたいことがたくさんあったはずなのに何一つも浮かばないよ。
ただ掌に触れる優しい感触ばかりが愛しくて仕方がないよ。

舞い散る桜は雪のよう。
雪なら溶けて、消えて、貴方のように。
無くなって。

雪が溶けても、春になんてならなかった。
桜が舞っても、貴方は何も伝えてやくれなかった。

掌に触れた花びらの優しい感触だけ、
一度も触れることのなかった貴方に重ねて。

消えた貴方が舞い散る桜の向こうに霞んで、
伝えたかった想いを紡げる日が来ることを。

ただただそれだけを願いながら、
春になるのを、待ち続けている。






メルマガVol122&123合併号掲載(2005年3月6日発行)
雪が溶けたら何になるかなんて謎かけ。


// written by K_