ぼくたちは歩いてく



彼女はいつも ぼくの半歩後ろを歩いていた
歩きだすのは同時で 同じ場所なのに
半歩分 下がってゆく彼女

そう 僕の方が半歩分 彼女よりも足が速かったのだ

ぼくはいつも 振り返り 彼女を少しだけ待つ
そうして追いついた彼女と肩を並べて
再び 歩きだす

しかし いつのまにか ぼくたちの間には
半歩分 の距離 があいていた

その度に立ち止まり 彼女を待つぼく
足が速いんだと笑ったぼくに
彼女も笑って言った

 何をそんなに生き急ぐの?

胸の奥にある くろい くろい 塊を
彼女の細い片腕に引きずりだされた気がした

きっと ぼくは
生き急いでいるわけではなくて
ただ ぼくは
彼女と肩を並べて歩くのが怖かったのだ
いつも彼女の 半歩分 だけ前を歩いていたかったのだ

優しく微笑みながら後ろを歩く彼女に
いつか追い抜かれてしまうのが 怖かったのだ
追い抜かれて 追い越されて 歩みを速めた彼女はきっと
ぼくを置いて遠くへ行ってしまう―――

彼女は足を踏みだし ぼくの隣に並んだ
そうして 立ち止まったぼくの腕をとった

 行こう

そうして浮かべた笑顔は
今までで一番 最高だった

ぼくたちはまた歩きだした
一つだけ違うのは 半歩後ろではなく
隣に彼女がいること
そして彼女とぼくは温かい腕で繋がっていること

ぼくたちは歩いてく
少し立ち止まりながらも 前を向いて 二人手を繋いで

ぼくたちは歩いてく

ぼくたちは 生きていく






メルマガVol.16掲載(2002年12月発行)
二人で生きるということ。


// written by K_